大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(ワ)9551号 判決

原告 皆藤直弘

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 高橋直治

被告 株式会社みなふじ

右代表者代表取締役 尾島靖

右訴訟代理人弁護士 菅原哲朗

同 日置雅晴

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告の昭和五九年九月六日開催の株主総会における尾島靖及び渡辺方治を取締役に、黒田勇を監査役にそれぞれ選任する旨の決議は存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告らの請求を却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告ら

1  被告は、発行済株式総数二万四〇〇〇株の会社である。

2  被告の発行済株式のうち、原告皆藤直弘(以下「直弘」という。)は六五五〇株を、皆藤文恵(以下「文恵」という。)は五〇〇〇株を、原告皆藤薫(以下「薫」という。)は四九〇〇株を、皆藤正敏(以下「正敏」という。)は五五五〇株をそれぞれ有している。

3  直弘は昭和五八年六月二七日被告の取締役兼代表取締役に重任し、原告飯島親明は昭和五九年八月一〇日被告の取締役に就任し、薫は昭和五八年六月二七日被告の監査役に重任した。

4  被告は昭和五九年九月六日臨時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を開催し、請求の趣旨第一項の決議(以下「本件決議」という。)をしたとして、その旨の登記をしている。

5  しかし、本件決議は不存在であるので、その確認を求める。

二  原告らの主張に対する認否

1  原告らの主張1ないし4の事実は認める。

2  同5の主張は争う。

三  被告

1  被告の昭和五九年八月当時の株主構成は、原告らの主張2のとおりであるほか、渡辺方治(以下「渡辺」という。)が二〇〇〇株を有していた。

2  株式会社小倉(以下「小倉」という。)は同月三一日被告に対し一億六〇〇〇万円を貸し渡す旨の契約を締結した。

3  直弘及び正敏は、同日、前項の債務の担保として、同人らの有する被告の株式を小倉に譲渡し、文恵、薫の有する被告の株式についても直弘が右両名の代理人としてこれを小倉に譲渡した。また、渡辺も同様にその有する株式を小倉に譲渡した。そして、直弘は右二万四〇〇〇株の株式にかかる株券のうち所在不明の二〇〇〇株を除くその余の二万二〇〇〇株の株券を小倉に交付した。

4  直弘、正敏及び渡辺は、被告の株式を前項のとおり譲渡担保に供するに先立ち、同日、被告の株主総会を開催し、直弘は、文恵、薫の代理人をも兼ねて、正敏、渡辺とともに本件決議をした。ただし、株主総会議事録は、これを同年九月六日にしたこととして作成した。

5  文恵、薫は、3の株式譲渡担保及び4の本件決議につき、事前にこれをするについての代理権を直弘に授与し、又は少なくとも、事前に株券及び印鑑を直弘に預けることにより株式の処分、株主総会の決議につき包括的にその代理権を直弘に授与した。

6  小倉は、2の契約に基づき、同年九月一三日以前に一五七万三八四五円を、同年九月一三日に一億五八七二万四三八四円を、それぞれ現実に被告に貸し渡した。

7  2、3の契約を締結するにあたり、被告は、その営業を譲渡しようとするときは予め小倉の書面による承諾を得なければならないこと、貸金一億六〇〇〇万円については昭和六〇年三月から毎月元金一一〇万円ずつに金利を付与して弁済すること、被告がこれらに反したときはその債務の弁済に代えて直弘らの有する株式を小倉に確定的に帰属させることを約した。

8  被告は、昭和五九年九月二二日ころ、小倉の承諾を得ることなく、日本ホテル産業株式会社(後に東興フードサービス株式会社と商号変更した。以下「訴外会社」という。)に対し被告の営業を譲渡する旨の契約を締結した(以下、右営業譲渡を「本件営業譲渡」という。)。また、被告は前記一億六〇〇〇万円の債務の弁済を全くしない(なお、原告の主張する弁済は、毎日食堂株式会社(以下「毎日食堂」という。)の小倉又は小倉千代登に対する別口の借入金債務についてされたものである。)。よって、小倉は被告の全株式を確定的に取得した。

9  被告の役員の任期は二年であるところ、原告らの任期及び本件決議によって選任された役員の任期は満了したので、被告の昭和六二年二月八日開催の株主総会において尾島靖、渡辺、武田次郎が取締役に、黒田勇が監査役にそれぞれ選任されて就任した。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は否認する。

2  同2の事実は不知。

3  同3のうち、直弘が被告の株式二万四〇〇〇株の株券のうち所在不明の二〇〇〇株を除くその余の二万二〇〇〇株の株券を小倉に交付したことは認め、その余の事実は否認する。

4  同4ないし同7の事実は否認する。

5  同8のうち、被告が昭和五九年九月二二日ころ訴外会社に対し本件営業譲渡をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。小倉は同月二〇日ころ口頭で本件営業譲渡を承諾した。また、被告の小倉に対する債務は、小倉の承諾を得て毎日食堂がこれを引き受け、約定に従ってその弁済がされている。

6  同9のうち、被告が昭和六二年二月八日に株主総会を開催し、尾島靖、渡辺、武田次郎を取締役に、黒田勇を監査役に選任する旨の決議がされ、右四名がそれぞれ就任したことは否認する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  被告の発行済株式総数が二万四〇〇〇株であり、そのうち二万二〇〇〇株についての昭和五九年八月当時の株主構成が、直弘六五五〇株、文恵五〇〇〇株、薫四九〇〇株、正敏五五五〇株であったことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、その余の二〇〇〇株は誰が株主であるか不明であり、株券の存否、所在も判明しなかったため、同月二〇日ころ直弘と渡辺との間において、便宜上、渡辺をその株主としたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  被告はその発行済株式二万四〇〇〇株を小倉が取得したと主張するのでその当否について判断するに、《証拠省略》を総合すると次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  直弘、正敏ら皆藤一族は、被告のほか毎日食堂等の会社を経営していたが、関連会社のうち国際総合食販株式会社のした不動産取引が原因で毎日食堂も多額の負債を負うこととなった。

2  直弘は、右の負債を整理するため、昭和五九年八月末ころ、渡辺を通じ、小倉に対し、一億六〇〇〇万円の融資を依頼した。

3  小倉と直弘、正敏、渡辺は、同月三〇日、融資の条件について話し合い、被告が経営しているパレスサイドビル地下一階の店舗の営業権、被告の全株式等について譲渡担保権を設定すること、被告及び毎日食堂が使用する酒類については小倉から継続して購入すること等の小倉が提示した融資条件を直弘らが受け入れたことにより、小倉が被告に融資することとなった。

4  小倉と被告は、同月三一日、小倉が被告に一億六〇〇〇万円を貸し渡す旨の契約を締結し、その担保として、被告がその営業を小倉に譲渡することを合意した。また、直弘、正敏は、被告の小倉に対する右債務を担保するため、その有する被告の株式を小倉に譲渡し、文恵、薫は直弘に株券を事前に預けること等によりその有する被告の株式の処分につき直弘に包括的に代理権を授与していたため、直弘は、文恵、薫の株式についても右二名の代理人としてこれを譲渡担保に供した。そして、直弘は当日持参した被告の株式のうち二万二〇〇〇株にかかる株券を小倉に交付したが(直弘が被告の株式のうち二万二〇〇〇株にかかる株券を小倉に交付したことは当事者間に争いがない。)、その余の二〇〇〇株については、誰が真の株主かということも株券の存否・所在も不明であったので後日交付することとされ、現実に引き渡すことはされなかった。

5  小倉は、前項のとおり直弘らから取得した被告の株式につき、その名義を小倉千代登一万一五五〇株、武田次郎四九〇〇株、小倉豊五五五〇株、渡辺二〇〇〇株とした。

6  小倉は被告に対し、同年九月一三日以前に一五七万三八四五円を、同年九月一三日に一億五八七二万四三八四円を、それぞれ現実に被告に貸し渡した。

7  直弘は、同年九月二二日ころ、被告の代表者として、小倉の承諾を得ることなく、訴外会社に対し一億六〇〇〇万円で本件営業譲渡をしたが(被告が同年九月二二日ころ訴外会社に対し本件営業譲渡をしたことは当事者間に争いがない。)、その契約書の作成日付は同年九月一日とした。

なお、直弘は、本件営業譲渡につき、これは小倉に対する一億六〇〇〇万円の債務を弁済するためのものであり、その趣旨を説明して小倉の承諾を得ていた、ところが、その譲渡代金を他の債権者に対する弁済に充てることとなったため、小倉の承諾のもとに被告の小倉に対する債務を毎日食堂において引き受けることとし、爾後毎日食堂が約定に従ってこれを弁済していたと供述する。しかし、本件営業譲渡を小倉が承諾していたとの点については、《証拠省略》によると、被告の営業が訴外会社に譲渡され、しかもその代金が他の債権者に対する弁済に充てられれば、被告の実質的財産価値は激減してしまうにもかかわらず、小倉が本件営業譲渡代金一億六〇〇〇万円を確保する等の保全措置を全くとっていないこと、毎日食堂は昭和五九年七月に手形の不渡りを出していることが認められるところ、小倉としては本件営業譲渡を知っていれば自己の貸金の弁済を確実にするため別途担保を徴するなどの方法をとるはずであるのにそのような方法を全くとっておらず、また毎日食堂のような会社が債務を引き受けても小倉にとって自己の債権の回収が確保されるものではないのであるから、このような状況のものにおいて小倉が本件営業譲渡等につき承諾をすることは通常あり得ないといわなければならない。また、直弘は前記認定のとおり本件営業譲渡契約書の作成日付を昭和五九年九月一日に遡らせているのであるが、小倉が本件営業譲渡を承諾しているのであればこのように契約書の作成日付を遡られる必要はないはずであるうえ(同月六日付で本件決議がされたとしてその登記がされているため、これより前の日付で直弘を代表者として契約書を作成する必要があったとみられる。)、《証拠省略》によると、訴外会社の商号は「日本ホテル産業株式会社」からいったん被告と同一名称の「株式会社みなふじ」に変更されてその営業が継続されており、しかも直弘は訴外会社からの本件営業譲渡代金を被告の口座に入金せず直弘個人の口座に入金していることが認められるが、小倉が本件営業譲渡を承諾していたのであればこのような不自然なことが行われるはずがないと考えられることからすると、本件営業譲渡及びその営業譲渡代金を他の債権者に対する弁済に充てることにつき、小倉がこれを承諾していたとみることはできないというべきである。また、毎日食堂が小倉に弁済金を交付していたことについても、《証拠省略》によると、小倉及びその代表取締役である小倉千代登は毎日食堂に対して別口の貸金債権を有しており、毎日食堂が小倉に交付していた金員はその弁済に充てられたものであることが認められるのであるから、以上によると、直弘の前記供述は措信できないといわなければならない。

そして、右認定事実によると、被告が訴外会社に本件営業譲渡をし、また小倉に対する借入金の弁済を怠ったことは、小倉が被告に対して有する担保権の侵害であるとともに被告が小倉に対して負担する債務の不履行に該当するものであるから、これにより、直弘らが小倉に対する借入金債務の担保として譲渡した被告の株式は確定的に小倉(名義人たる小倉千代登ら)に帰属し、直弘らはその株主たる地位を確定的に失ったというべきである。よって直弘及び薫の被告株主としての地位に基づく本件訴えについて、右両名は原告適格を欠くといわなければならない。

三  被告の役員の任期が二年であること、原告らの任期及び本件決議によって選任された役員の任期が満了したことを原告らは明らかに争わないのでこれを自白したものとみなし、《証拠省略》によると、前記のとおり被告の株式を取得した小倉千代登、武田次郎、小倉豊は昭和六二年二月八日に株主総会を開催し、尾島靖、渡辺、武田次郎が取締役に、黒田勇が監査役にそれぞれ選任されて就任したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。もっとも、被告の発行済株式二万四〇〇〇株のうち右三名の有する二万二〇〇〇株を除くその余の二〇〇〇株については、前記のとおり、直弘と渡辺との間においては便宜上渡辺をその株主としたものの、真実の株主は現在にいたるも不明であることが認められるのであるが、真実の株主からの権利主張等があったことの認められない本件においては、右二〇〇〇株の真実の株主を右株主総会において株主として扱わなかったからといって、右株主総会が不存在のものとなるとまでいうことはできない。よって、本件訴えは特別の事情のない限り訴えの利益を欠くに至ったものと解されるところ、右特別の事情を認めるに足りる証拠はないから、本件訴えはその利益を欠くに至ったというべきである。

四  以上によれば、その余のついて判断するまでもなく、本件訴えは不適法であるのでこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐賀義史)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例